「大事な契約は避けたほうがいい」「なんとなく調子が出ない」——占星術に詳しい人なら、そんな話と一緒に「ボイドタイム」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
でも実際、ボイドタイムって何なのでしょう?いつから言われるようになったのか?なぜそんなに注意が必要だと考えられているのか?
この少し不思議な月の空白時間について、歴史的な背景から現代の解釈まで詳しく解説していきます。
ボイドタイムの正体
ボイドタイムの正式名称は「ボイド・オブ・コース・ムーン(Void of Course Moon)」。占星術では「VoC」や「VOC Moon」と略されることもあります。
これは月が今いる星座で、他の惑星と最後のメジャーアスペクトを作ってから、次の星座に移るまでの間の時間のこと。つまり月が次の目的地に向かう途中、どこにも繋がっていない「空白の時間」を指します。
月は約2日半ごとに星座を移動するので、現代の定義では2〜3日に一度は必ずボイドタイムが訪れます。長さは数分のこともあれば、数時間、時には丸一日以上続くことも。
2000年の歴史を持つ古代の概念
実はボイドタイムという考え方、めちゃくちゃ古いんです。
ギリシャ時代の誕生(紀元1世紀頃)
この概念が最初に登場したのは、ヘレニスティック占星術の時代。紀元1世紀頃のギリシャです。
当時の占星術師たちは、この状態を「κενοδρομία」(ケノドロミア)と呼んでいました。意味は「空虚を走る」「空っぽの中を走る」。なんだか詩的ですよね。
元々の定義はこうでした: 月が次の30度以内(約1星座分)で、他のどの惑星とも正確なアスペクトを形成しない状態。星座の境界線は関係なく、純粋に度数だけで判断していました。
この定義だと、ボイドタイムは年に数回程度しか起きない、かなり稀な現象でした。
当時は主に出生図(ネイタルチャート)で使われる概念で、「この配置で生まれた人は…」という解釈に使われていたんです。4世紀の占星術師フィルミクス・マテルヌスは、出生時に月がボイドだった人について、かなり厳しい(破滅的とも言える)解釈を残しています。
中世アラビア占星術での変化(9世紀頃〜)
時代が進み、占星術がアラビア世界に伝わると、定義が大きく変わりました。
サール・イブン・ビシュル、アブー・マーシャルといった中世のアラビア占星術師たちは、星座の境界線を基準にする定義に変更したんです。
中世の定義: 月が今いる星座の中で最後のアスペクトを完成させてから、次の星座に入るまでの時間。
この定義変更には理由があって、ホラリー占星術(質問占星術)の発展が大きく関係していると考えられています。ホラリーでは「アスペクトが完成するかどうか」が重要な判断基準だったため、星座の境界線が重視されるようになったんですね。
この定義だと、ボイドタイムは2〜3日に一度、つまり月12回程度起こる、そこそこ頻繁な現象になりました。
ルネサンス期のウィリアム・リリー(17世紀)
17世紀イギリスの占星術師ウィリアム・リリーは、『Christian Astrology』という占星術の古典的名著を残しました。
リリーの定義は少し曖昧で、研究者たちの間でも解釈が分かれています。彼の実際のホラリーチャートの事例を見ると、中世の定義とも古代の定義とも少し違う、独自の使い方をしていたようです。
興味深いのは、リリー自身はボイドタイムをそこまで深刻には扱っていなかったこと。「物事がスムーズに進まない」程度の解釈で、決して「絶対避けるべき凶時」とは考えていませんでした。
20世紀アメリカで爆発的に広まった理由
さて、ここからが面白いところです。
アル・H・モリソンの登場(1940年代〜)
現代のボイドタイム人気の火付け役は、間違いなくアル・H・モリソンというアメリカの占星術師です。
モリソンは45年以上もボイドタイムの研究に人生を捧げた人物。1940年代から本格的に研究を始め、こんなことをしました
モリソンの研究内容
- 警察の犯罪捜査のタイミングを調査 → ボイドタイム中に始めた捜査は、犯人を逮捕しても有罪にならなかった(ただし犯罪組織を混乱させることはできた)
- 大統領候補者の指名タイミングを調査 → ボイドタイム中に指名された候補者は当選しなかったと主張
- ボイドタイムの年間カレンダーを毎年発行 → 一般の人も簡単にチェックできるようにした
モリソンはこう述べています
「2〜3日ごとに、主観的で精神的な、非物質的な関心事——祈り、ヨガ、遊び、心理療法、または受動的な体験、睡眠、瞑想——に使うべき時間がやってくる。この期間は数秒で終わることもあれば、3日3晩続くこともある。ボイドタイム中に下された決断は、後から見ると非現実的だったと判明する」
彼の主張は非常に強烈で、「ボイドタイム中に始めたことは、意図した結果を決して得られない」とまで言い切っていました。
アメリカ特有の現象
ここで面白い事実があります。
「イギリスではボイドタイムはホラリー占星術という非常に専門的な分野でしか使わない。アメリカでなぜこんなに一般の人まで気にしているのか、イギリスの占星術師たちは驚いている」とのこと。
つまり、ボイドタイムを日常生活で気にする文化は、かなりアメリカ特有なんです。
モリソンの影響で、アメリカでは占星術に詳しくない人でも「ボイドタイムは避けたほうがいい」と知っているレベルにまで浸透しました。
研究者たちが指摘する問題点
現代の占星術研究者、特に古典占星術を専門にする人たちは、重要な問題を指摘しています。
定義の混同問題:
年に数回しか起きない古代の定義で書かれた「破滅的」な解釈を、月12回(週2〜3回)起こる現代の定義に当てはめてしまっている。
古代の占星術師が「この配置で生まれた人は困難に直面する」と書いたのは、めちゃくちゃ稀な配置についてです。でも現代では、12人に1人がボイドタイム中に生まれていることになります。
占星術師のクリス・ブレナンは、自身のポッドキャストでこう述べています:
「週に2回も起こることが、本当にそんなに破滅的だと考えるのは矛盾している。それほど凶悪な時間が、月に12回も訪れるなんて考えにくい」
実際、占星術師ジャニス・ハントリーの研究では、ボイドタイム中に生まれた250人を調査したところ、有名人の割合が一般人より高かったという結果も出ています(12人に1人ではなく、8人に1人)。
つまり、ボイドタイム生まれだからといって不幸になるわけではない証拠です。
「空っぽの月」が私たちに与える影響
では、現代の占星術ではボイドタイムをどう解釈しているのでしょうか。
占星術において月は、私たちの感情や直感、無意識の領域を司る天体です。その月が他の惑星との繋がりを失って「ボイド=空っぽ」になると、こんなことが起きるとされています。
意識の変化
頭がぼんやりする、集中力が続かない、現実感が薄れてふわふわした感覚になる。月が感情や無意識を司るため、その繋がりが切れると、現実との接続が弱まるような感じ。
判断力の鈍化
普段なら簡単に決められることが決められない、重要な情報を見落としやすくなる。「あれ、なんでこんな判断したんだろう?」と後で思うような決定をしがち。
物事の停滞と予想外の展開
スムーズに進むはずのことが、なぜか引っかかる。予想外の遅延や修正が発生しやすい。でも面白いのは、「悪い方向」とは限らないこと。
モリソンの犯罪捜査の例でも、「犯人を有罪にはできなかったけど、犯罪組織を混乱させることはできた」という結果でした。つまり、意図した結果にはならないけど、別の形で何かが起こるんです。
感情のふわふわ感
ボイドタイム中に生まれた人を研究した結果では、「感情の起伏が激しい」「孤独を感じやすい」「他人と違うと感じる」といった特徴が見られたそうです。
ボイドタイムに避けたいこと
ボイドタイム中の鉄則として「新しいことを始めない」がよく挙げられています。
仕事・キャリア関係
- 履歴書の提出
- 面接
- 重要なプレゼン
- 契約書へのサイン
- 新規事業の開始
- 新しい仕事のスタート
お金に関すること
- 大きな買い物(使わないものを買ってしまう)
- 投資
- 口座開設
- 価格交渉
- 車の試乗や購入
人間関係
- 初デート
- プロポーズ
- 結婚
- パーティーの主催
その他
- 選択的な手術
- ギャンブル
- 重要会議の開催
- 新しいペットを迎える
なぜこれらを避けるべきなのか?
ボイドタイム中に始めたことは
- 期待した結果にならない
- 後で修正が必要になる
- 欠陥や不足が後から明らかになる
- 判断材料となる重要な情報が隠れている、または見落としている
じゃあ、何をすればいいの?
ボイドタイムは決して「悪い時間」ではありません。むしろ、普段できないことに使える貴重な充電期間です。
内省と充電の時間に
🧘 精神的な活動
瞑想、ヨガ、祈り、マインドフルネス。月の繋がりが切れているからこそ、自分の内側に深く入っていける時間。
💤 質の良い睡眠
夢を見やすい時間でもあるとされています。夢日記をつけるのもおすすめ。
📔 内面的な作業
日記を書いて自分の気持ちを整理する、セラピーを受ける、カウンセリング。
💭 アイデアを温める
ブレインストーミングや空想は大歓迎。ただし実行は後回しに。
ルーティンワークに集中
🧹 日常的なタスク
掃除や洗濯などの家事、請求書の支払い、デスク周りの整理整頓。すでに習慣化されていることは問題なく進められます。
🏃 いつものルーティン
ジムトレーニング、散歩、通勤。新しく始めるのではなく、続けることは大丈夫。
📁 既存プロジェクトの継続
すでに動いているプロジェクトを進めるのは問題ありません。
クリエイティブ活動
✨ 自由な発想
何の制約もなく空想や妄想を楽しむ。現実離れしたアイデアほど面白い。
🎨 セルフケア
美容時間、アロマバス、マッサージ。自分を癒す時間。
🌙 静かな一人時間
あえて何もしない、ぼーっとする時間も大切。
終わらせる活動には最適
実はボイドタイムは「終わり」に向いている時間でもあります。
❌ 関係を終わらせる
恋愛関係の解消、離婚、縁を切る。
🚪 ビジネスを閉じる
事業の終了、プロジェクトの完了報告。
⚖️ 訴訟される側になる
逆に言えば、誰かに訴えられる場合、相手がボイドタイム中に訴訟を起こしたなら、あなたに有利に働く可能性があります。
ちょっと面白い活用法
海外のコミュニティでは、こんな裏技的な使い方も紹介されています。
「やりたくないことを約束する時間」として使う。例えば、断りづらい誘いを受けたとき、ボイドタイム中にOKしておけば、その約束は実現しないかもしれない…という考え方です。
もちろん真面目な約束には使えませんが、会いたくない人に強引に誘われている時の社交辞令にぴったりです。
星座によって影響が変わる?
実は、月がどの星座でボイドになるかによって、影響の強さが変わるという説もあります。
17世紀の占星術師ウィリアム・リリーは『Christian Astrology』の中でこう述べています
月が牡牛座、蟹座、射手座、魚座でボイドになる場合は、他の星座よりも穏やかな影響だ
これらの星座は月にとって居心地がいい場所(牡牛座は月の高揚の星座、蟹座は月の支配星座)だったり、木星が支配する拡大的な星座(射手座、魚座)だからかもしれません。
逆に、月がボイドになると影響が強いのは、火星や土星が支配する星座(牡羊座、蠍座、山羊座、水瓶座)だと考えられています。
どこまで気にするべき?
ここまで読んで「全部避けなきゃ!」と思った方もいるかもしれません。でも、冷静に考えてみてください。
現実的なアプローチ
多くの占星術研究者たちが指摘しているように、週に2〜3回も訪れる時間を全部「凶時」として避けるのは現実的ではありません。
大切なのは、バランス感覚です。
本当に重要なことについては、できればボイドタイムを避ける
- 人生を左右するような大きな決断
- 多額の投資や不動産購入
- 結婚や離婚
- 新規事業の立ち上げ
日常的なことは気にせず進めて大丈夫
- 仕事の継続
- 通常の買い物
- 友人との約束
- ルーティンワーク
ヘレニスティック定義 vs 現代定義
もし本当に厳密にボイドタイムを気にするなら、ヘレニスティック定義(30度以内にアスペクトがない)を使うほうが理にかなっています。
なぜなら、この定義だと年に数回程度の稀な現象になるので、「本当に注意すべき時期」として扱える。毎週2回も「超凶時」が来るって、さすがにおかしいですよね。
定義は3つある?現代占星術の混乱
ここまで読んで気づいた方もいるかもしれませんが、実はボイドタイムには3つの異なる定義が存在します。
1. ヘレニスティック定義(最も古い・最も稀)
月が次の30度以内で、どの惑星とも正確なアスペクトを形成しない → 年に数回程度
2. 中世〜現代定義(最も一般的)
月が今いる星座で最後のアスペクトを完成させてから、次の星座に入るまで → 月12回程度(2〜3日に一度)
3. リリー定義(研究者の間で議論中)
月がアスペクトの圏内(オーブ内)に入っていない状態 → 中世定義と現代定義の中間くらいの頻度
どの定義を使うかで、ボイドタイムの頻度も重大性も全く変わってきます。
占星術師のクリス・ブレナンとヤスミン・ボーランドは、2時間以上のポッドキャストでこの問題について議論しています。結論は「占星術コミュニティ全体で、どの定義を使っているのかすら統一されていない」というものでした。
宇宙からの「休憩時間」として
ボイドタイムは2〜3日に一度、自然に訪れるリズムです。
月のサイクルは、私たちの体や心のリズムとも深く繋がっています。満月の夜に眠れない人が多いのも、月経周期が月の満ち欠けと関連しているのも、偶然ではありません。
ボイドタイムは、宇宙が「ちょっと立ち止まって、充電しよう」と教えてくれているサインなのかもしれません。
新しいチャレンジは月が次の星座に入ってから。それまでは、今あるものを大切にしたり、自分自身と向き合う時間として過ごしてみてください。
科学的根拠はあるの?
ボイドタイムの影響について科学的な証明はありません。
大切なのは、「信じる・信じない」ではなく、「自分の人生に取り入れたときに、役立つかどうか」。
まとめ:2000年の知恵を現代に活かす
ボイドタイムは、2000年近い歴史を持つ占星術の概念です。
古代ギリシャで生まれ、アラビアで形を変え、ヨーロッパに伝わり、20世紀アメリカで大ブレイク。その過程で定義も解釈も変化してきました。
重要なのは、「絶対的な凶時」として恐れるのではなく、宇宙のリズムを意識するツールとして活用すること。
人生を左右するような大きな決断のときは避けて、日常的なことは気にせず進める。そして、月が「空っぽ」になる時間を、自分自身を満たす時間として使う。
占星術は、人生をより豊かに、よりスムーズに進めるためのツールのひとつ。ボイドタイムも味方につけることで、より充実した毎日を送れるはずです🌙✨

